「タテマエ平等社会」ニッポンの現実
今年の東京大学入学式で、社会学者の上野千鶴子さん (名誉教授) の祝辞が話題を呼んでいます。とくに女子学生に、頑張っても報われない「タテマエ平等社会」の現状認識を説き、それに対する心構えを呼びかけるものでした。ツイッターを見ると、反発する意見もちらほらありますが、感動したという意見が圧倒的です。個人的には、上野さんの意見を受け入れる人が多くてよかったと思います。
東京大学「2割の壁」とは
祝辞の中で、上野さんは、東京医科大学入試の女性や浪人生に対する得点の不正操作問題に触れ、東大医学部でも同様な性差別がある可能性を示唆(しさ)しました。 偏差値をみても男女受験生に優劣はないのに、医学部は女性が入りにくい現状があるようです。 東京大学全体でも、入学者の女性比率は「2割の壁」を超えないという現実が長年続いているそうです。これは「息子は大学まで、娘は短大まで」という、日本の社会に根強い親の性差別の結果だというのが上野さんの見方です。
これまで誰もみたことがない「知」を生み出すための「知」を身につけて
上野さんは、性差別が蔓延(まんえん)し、頑張りが報われない社会の中で苦しむ人々に力を貸してほしい、と励ましました。また「知」とは何かについて、「大学では、すでにある知を身につけるのではなく、これまで誰も見たことがない知を生み出すための知を身につけてほしい」と結びました。
上野さんは、ジェンダー(社会的・文化的に形成された性別) 研究の草分けとして、フェニミズムの理論家、闘士として、世間に性差別の不合理を訴えてきました。入学式の祝辞にも、その考え方が色濃く表れていました。彼女の書いた文章や講演は、話に迷いがなくて小気味よく、ときに男性である私が気づかない視点を教えられてハッと思うことがあります。
世間があなたのアタマを洗脳して苦しめています
上野さんは朝日新聞土曜版「be」で「悩みのるつぼ」(人生相談)を担当しています。私は毎回目を通していますが、回答の切れ味のよさに感心します。最近では、公務員女性(30代)の「おひとりさま、貫きたいが両親のことを考えると罪悪感を覚える」という相談に回答しています。上野さんは「世間からはずれた生き方を選んだはずなのに、世間があなたのアタマを洗脳して、あなた自身を苦しめている」と指摘し、「規格はずれの娘であることをご両親に認めてもらいましょう」と励ましています。世間知にしばられない、あなたが信じる生き方を、ということでしょう。
弱者が弱者のままで尊重される社会
上野さんの祝辞の中でも、世間の目を気にして生きる東大女子学生のことが取り上げられています。合コンで男子東大生はもてます。しかし女子学生は、大学名を尋ねられて、あいまいにごまかす例が少なくないそうです。なぜでしょう。上野さんは、そこに、女性はかわいい存在で保護される存在でなければならないと、長年日本社会を縛ってきた考え方を指摘します。東大の女子学生は、そいう世間の目にさらされているのを恐れているんですね。彼女たちは上野さんの講演を聞いて、どのような感想を持ったでしょうか。ちなみに上野さんの説くフェニミズムは、弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です。