経団連中西宏明会長(日立製作所)が「終身雇用制度を守るのは無理と経営者はみんな考えている」と発言しました。中西会長は、新卒の4月一括採用が学生を就活に走らせ、学業に身が入らないので、大学側と採用方法を検討している、とも述べています。ツイッター上では、この発言をめぐり投稿が押し寄せています。その多くは、終身雇用制度は既に崩壊している、と指摘しています。4月以降に個々に採用ということになれば、3か月の試用期間を過ぎて、非正規労働者が増えるのではないかと懸念する声もあります。
終身雇用という言葉は法律にはありません。労働基準法の「期間の定めない雇用」(無期雇用)という言葉を、世間で「終身雇用」と言い慣わしてきたわけです。こういう仕組みは外国にはなく、日本独特の労働環境だといわれます。終身雇用のお陰で、労働者は住宅ローンを組むなど人生設計が立てやすくなります。生活も安定しやすく、精神的にも楽ですよね。
終身雇用は経営の都合で運用されてきた
しかし、もともと終身雇用は、経営者の都合で運用されてきた歴史があります。太平洋戦争の敗戦後、50年代から60年代、高度経済成長時代が続き、労働力不足で経営者は労働者を解雇しなくなったのです。法律も解雇権の濫用(らんよう)を禁じました。
その後「失われた20年」という言葉に象徴される時代になり、1996年の労働者派遣法の改正、98年の派遣適用対象の自由化がありました。業績悪化に苦しむ経営側は、派遣社員を増やすことで、終身雇用の正社員を減らしてきたのです。今や、派遣社員は増加の一途をたどる時代になりました。ツイッターで、終身雇用は守れないという中西会長に反発する声は、こうした現実を指しています。
雇用が崩れ格差社会が拡大した
もちろん、派遣社員の方が自由度が高い、と希望する人もいます。しかし派遣社員が増えるに従って格差社会が出現したことも事実です。正社員に比べて派遣社員の給与は絶望的に低賃金です。その格差はますます広がりつつあります。学生の就職問題は大事です。でも、終身雇用を守れないと認めるなら、経営のトップとして、いかにして働く人の生活、ひいては人生を守るか研究してもらいたものです。